キルギス語は、中央アジアのキルギス共和国を中心に話されている言語で、話者数は諸説ありますが500万人程度ではないかと言われています。専門家は現地の発音に合わせて「クルグズ語」と言うこともありますが、ここではより一般的な「キルギス語」と表記しておきます。キルギス語はテュルク系の言語に属しているため、トルコ語、カザフ語、ウズベク語などと文法や語彙の点で共通点が多いです。
そんなキルギス語を日本で勉強したい!という人は少ないと思いますが、 勉強したくなってしまった方を対象に、キルギス語の勉強方法を解説します。
授業・家庭教師
キルギス語は通常の語学スクールでは、まず教えられていません。
しかし、いくつか学べる可能性があります。
東京外国語大学のオープンアカデミー
東京外大の学生でなくとも授業が受けられる「オープンアカデミー」で、キルギス語の講座が開かれることがあります。2016年の8月に、3回の講義として開かれたようです。
2018年も開講される予定でしたが、残念ながら中止となったようです。申し込みが少なかったのでしょうか?
東京(本郷)へ行ける人でないと参加はできませんが、講師のアクマタリエワ・ジャクシルクさんはキルギス語の専門家かつおそらくキルギス語ネイティブなので、費用対効果は高いでしょう。
東京外大のオープンアカデミーは毎夏開かれているので、来年もキルギス語が開講されることを願いましょう。
バークレーハウス語学センター
東京・市ヶ谷にある語学スクールで、キルギス語の講座があります。「受講者の声」があることから見て、実際に実績があるようですね。問題はレッスン単価です。安くても1回(55分)6,900円がかかります。主に、お金に余裕のある人や法人向けですね。
http://berkeleyhouse.co.jp/language/kyrgyz
キルギス人に教えてもらう
キルギス語を勉強したいと思う人は、たいてい何らかのきっかけでキルギスと関係があり、キルギス人の知り合いがいると思います。その知り合いを通じて、良い先生を紹介してもらえばよいのです。先生を見つけたら、他の語学と同じようにカフェや、Skypeを通じてレッスンをしてもらいましょう。
Skypeロシア語レッスンを活用
人件費の安いフィリピンなどの英語圏の人が格安で英語を教える「Skype英会話」が定着していますが、そのロシア語版があります。そしてフィリピン同様に人件費が安いキルギス人が講師をやっているサービスがあります。
基本はロシア語を教えるサービスなのですが、ロシア語を勉強する傍ら、キルギス語を教えてもらうのも不可能ではありません。私もこのサービスで少しだけロシア語を習いましたが、講師に「キルギス語も教えられるか?」と聞いたところ「できなくもない」と言っていました(結局時間切れで教えてもらいませんでしたが)。ただ、彼らの多くはロシア語教師であり、キルギス語教師ではありません。またキルギス人には「キルギス語が不得意」な人もいるので、誰もがキルギス語を教えられるわけではありません。
青年海外協力隊に応募する
これは裏技みたいな感じですが、
に応募してキルギスへの派遣が決まると、派遣前にキルギス語の語学研修を受けることができます。いや、受けなければなりません。
青年海外協力隊は2年間、アジア、アフリカ、中南米などの開発途上国でボランティア活動をするプロジェクトです。配属先国は希望通りにならない場合が多いので、キルギスへ行けるとも限りません。
ただ、青年海外協力隊でキルギスの特に地方へ行った方は、非常にキルギス語ができるようになって帰ってきます。
教科書
授業を受けられれば教材は配られますし、先生がいろいろ紹介してくれると思います。ただ、独学が好きな人や、授業以上にもっと勉強したい、という場合もあるでしょう。そこでキルギス語の教科書を紹介します。とはいっても、日本ではもちろん、現地キルギスでも外国人向けのキルギス語教科書はあまり多くありません。その少ない選択肢の中から、いくつか紹介します。
1. 松下聖/スバゴジョエワ・アセリ/臼山利信「実践キルギス語入門」筑波大学グローバルコミュニケーションセンター(2017)
いきなりですが拙著です。筑波大学で「中央アジアの言語と文化」という科目が開設されており、その中で1学期だけキルギス語を主に教えることになり、授業テキストとして作成したものです。一般には販売されていません。筑波大学などいくつかの大学図書館に所蔵されています。
著者の一人である私はテュルク系言語の専門家ではありませんが、キルギスに数ヶ月間滞在している時にキルギス語を勉強したことから、この教科書を書くことになったのです。とはいえ、私だけでは書けないので、キルギス語ネイティブで言語学者・キルギス語教師のアセリさんにだいぶ助けてもらいました。
内容は、キルギス語を全く知らない人を対象に、キルギス語を学ぶ意義や文字、発音から解説しています。また、実際にキルギスでの生活で使う、重要な文法事項に絞った内容にしています。
これを使った独学も不可ではありませんが、説明が不十分な箇所もあるため、教えてくれる人が身近にいた方がいいでしょう。
あと、急いで作ったこともあり、間違いも割とあります。正誤表は必ず参照するように。正誤表が付いていない場合は、本書末尾に記載の著者にメールを送り、正誤表を取り寄せるように。
誰か私の後を継いでキルギス語教科書を作りたい、という意欲がある方がいれば、原稿や経験などいろいろと共有します。
2. ダウレトバエワ・ジャミリャー/ジョルブラコワ・マイラム「日本人継続学習者のためのキルギス語: Жапондор үчүн окуу китеби Кыргыз тили улантуучулар үчүн」(2017)
クラウドファンディングによって制作費を集めて作られた教科書です。初めはキルギス人向けの日本語教科書を作るために費用が集められたようですが、予想以上に集まったために日本人向けのキルギス語教科書も作られたとのこと。
この教科書は「すでにキルギス語の学習経験があり、キルギスでの留学や業務をする予定のある人」向けの教科書です。中身も、日本語での文法解説はほとんど無く、問題文もキルギス語で書かれています。
いきなりこの教科書で勉強するのは難しく、ある程度勉強を進めた学習者が、ネイティブのキルギス語の先生に教えてもらう時に使えると思います。
これも一般に販売されていないので、入手は難しいですが、Google Booksでサンプルが公開されているのでご覧ください。
3. 飯沼英三「キルギス語入門」ベスト社(1995)
日本語で書かれたキルギス語の教科書として、過去に販売された唯一のものでしょう。しかし、出版されたのは1995年と20年以上も前のこと(2001年に再版?されているようです)。入手しようと思っても、絶版になっており、見つけても中古で1万円以上はします。お金に余裕があればよいのですが、無理して入手する必要はないです。
ただ、キルギス語の概要をざっと日本語で知れる、というのは良い点です。いくつかの大学図書館には所蔵されているので、気になる人は教科書が所蔵されている図書館に足を運んでみると良いでしょう。
同じ著者の「キルギス語会話」という本もamazonで1万円以上で売られていますが、これは会話集とその音声のみが入っています。フレーズを繰り返して覚えたい場合には良いでしょう。
4. Bakytbek Tokubek uulu“Learn the Kyrgyz Language: Connecting with People and Culture”(2010)
英語で書かれたキルギス語の教科書ですが、日本語・ロシア語で書かれた教科書も含めて、これが外国人向けのキルギス語教科書の中では一番だと思います。300ページ以上あり、全てカラー。写真や図も豊富に使ってあり、非常に分かりやすいです。CDつきで、音声を聞きながらの学習もできます。
ただし、2010年出版のこの教科書も入手が困難になってきています。2016年夏にキルギスへ行った際には、ビシュケクの最も大きい本屋に在庫がありませんでした。2015年まではビシュケクの書店にもあったのですが……。少し前までアメリカのAmazonでも手に入りましたが、もう売られていません。
5. Э.Дж.Мамытова “Кыргызский для начинающих(初心者のためのキルギス語)“(2014)
ロシア語で書かれたキルギス語の教科書で、2014年に出版された比較的新しいものです。音声つきです。文法事項も網羅されており内容的には2の教科書と遜色ないのですが、素っ気ないんですよね。イラストは多少ありますが全て白黒で、写真もほとんどないです。英語よりもロシア語が得意でかつ「キラキラしたアメリカンな教科書より、ぶっきら棒な教科書の方が俄然やる気が出る」という嗜好の方は、こちらがいいと思います。
この教科書は現地へ行かないと買えないでしょう。もしかしたらロシアでも売っているかもしれません。
ちなみにキルギスではロシア語が「公用語」に指定されているので、キルギスへ行くならロシア語も勉強しておいた方がいいです。
6. Хулхачиева “Киргизский язык. Самоучитель(キルギス語独習)“(2017)
最近ロシアで出版されたキルギス語の教科書です。ロシア語をよく知っている人であれば、これで勉強してもよいでしょう。モスクワの大きな本屋さんなどで売っています。
体系的にまとまっていて良いのですが、やはりこの教科書も文字がびっしりで、イラストや写真は一切ないので、若干くらくらしてきます。白黒ではなく、2色刷りです。意欲がある方はぜひ。
なお、本書はロシアで出版された教科書なので、「キルギス語」の表記がキルギス風のКыргызскийではなく、Киргизскийとなっています。この違いはデカイです(わかる人にはわかる)。
辞書アプリ
言語を勉強する上で欠かせないのは辞書でしょう。キルギス語にも 紙の辞書はいくつかありますが、日本だと入手は難しいので、ウェブやスマホアプリの辞書を使うと便利です。
ウェブサイト(PC)
まず、PCで使える辞書サイトでは、次の2つがおすすめです。
- Эл создук - キルギス語と、対ロシア語・英語・トルコ語の辞書が使えます。辞書だけでなくフレーズ集もあるので、発音を聴いて繰り返す練習もできます。使い勝手もいいですね。一番おすすめ。
- Translatos - キルギス語と対ロシア語の辞書が使えます。ここの良いところは、キルギス語に近いウズベク語・カザフ語・トルクメン語の辞書も同じところで使えることです。中央アジアの言語をいくつか同時に勉強している人なんかには良いでしょう。
スマホアプリ
上で紹介したЭл создукのアプリバーションです。機能に差はないですが、スマホで使えるだけでも便利ですね。
他にも辞書アプリはあるようですが、私は使ったことがないのでここでは紹介しません。
なお、動詞に限った辞書であれば、キルギス語-日本語の辞書がAmazonで手に入るようです。
まとめ
以上、日本に居ながらキルギス語を勉強する方法をまとめました。